先日読んだ本で、とても面白かったのでご紹介したいと思います。
最後通牒ゲームの謎 進化心理学からみた行動ゲーム理論入門 / 小林佳世子
日本評論社から出版されました「最後通牒ゲームの謎」という本です。
ちなみにこちら日経・経済図書文化賞を受賞した本となります。
- ゲーム理論とは何か、囚人のジレンマや最後通牒ゲームの説明
- 「最後通牒ゲームの謎 進化心理学からみた行動ゲーム理論入門」のあらすじ、本を読んだ感想
「最後通牒ゲームの謎」のあらすじ
この本は文字通り最後通牒ゲームに焦点を当てた、内容的にも珍しい本です。
ん?最後通牒ゲームってそもそも何だろう、あまり聞いたこと無いなぁ
そうですね、最後通牒ゲームを説明する前に、まずはゲーム理論から説明しましょう。
ゲーム理論とは何か
ゲーム理論とは何かというと
「複数の利害関係を持つ相手がいる状況の元で、自分と相手の利益を最大化することを考え、その利益を受けるための最適な行動を決定する」ための思考法となります。
よく分からないです、もう少しわかりやすい説明でお願いします
まあもう少し噛み砕いて言うと。
社会でも経済でもなんでも良いですが、競争関係にある特定の相手に対して、自分がどういう行動をとれば利益が最大化するかを考えて戦略立案するという感じでしょうか。
というかもっと簡単に語弊を恐れないでいうと
「競争相手に勝つための戦略」を考える方法
でしょうか。
で、このゲーム理論の素晴らしいところはなんと言っても
「応用範囲が広い」という所です。
つまり、この思考法を使えば、企業の価格競争や国と国との交渉、友達や恋人との関係などなど、とにかく色々な場面で応用出来るというのがゲーム理論の素晴らしさです。
元々ゲーム理論も数学から生まれた分野だったのですが、それが経済学・生物学・社会学・政治学に移って様々な分野で発展しました。
ちなみに、近年のノーベル経済学賞のほとんどがゲーム理論に関する人物だったりします。
それから、ゲーム理論を初めに提唱したのが、数学者のフォン・ノイマンという方。
この方超天才で、ゲーム理論の他にコンピューターの基礎理論を作ったのも彼と言われていて、彼が考えたアーキテクチャーのコンピューターをノイマン型コンピューターと呼びます。
ゲーム理論といえば囚人のジレンマ
それくらい超有名なゲーム理論なんですが、その中でいくつか有名な実験があります。
例えば「囚人のジレンマ」というのを聞いたことがないでしょうか。
例えば2人の囚人がいます。
この2人がお互いに別々の部屋にいて、警察からそれぞれ同じある司法取引を持ちかけられます。
- 「もしお前が罪を自白したら犯罪を免除する」
- 「お前が黙秘した場合に相手が自白すれば黙秘した側に10年の刑が課せられる」
- 「どちらも黙秘すれば証拠不十分のためそれぞれ2年の刑が課せられる」
- 「どちらも自白すればそれぞれ5年の刑が課せられる」
さあ、あなたならどうしますか?
ちなみに文章だとわかりにくいのでこれを利得表で表すと以下になります。
(カッコ内の数字は左が囚人Aの刑期、右が囚人Bの刑期です)
囚人B 黙秘 | 囚人B 自白 | |
囚人A 黙秘 | (2年、2年) | (10年、0年) |
囚人A 自白 | (0年、10年) | (5年、5年) |
ここで最適解、2人とも一番得をするのはどこでしょうか?
はい、それは利得表左上のお互いが黙秘する事です。
そうすれば、お互い2年の刑で済みます。
ただ、これを個人で見るとどうでしょうか?
例えば、自分が黙秘して相手が自白しないと言い切れますでしょうか?
またもし相手が黙秘していれば、自分が自白すれば刑を免れます。
そう考えると、黙秘するには非常にリスクが高い。
なので、最適解だと黙秘になるのですが、相手の心理が分からない以上、結局お互いが自白をしてしまうという不思議な現象が起きます。
これがいわゆる「囚人のジレンマ」というもので、ゲーム理論といえば囚人のジレンマと言えるくらい有名な実験となります。
ちなみに囚人のジレンマだけでも世の中にかなりの数の論文が存在して、単純なゲームですが実は奥が深いゲームだったりします。
最後通牒ゲームとは何か
そしてゲーム理論では「囚人のジレンマ」と同じくらい有名な実験が本書の「最後通牒ゲーム」です。
最後通牒ゲームとはいったい何でしょうか?
例えば2人の人がいます。
仮に1人をAさん、もう1人をBさんと仮定します。
そしてAさんに1000円を渡して、その1000円をBさんと山分けするように指示します。
ただし条件があって
- Bさんに分配する金額はAさんが決める
- Bさんは分配された金額に対してOKすれば、AさんBさんともに金額を受け取れる
- Bさんは分配された金額に対してNGすれば、AさんBさんともに金額を受け取れない
例えば、Aさんが1000円を受け取り、Aさん:700円、Bさん:300円と分配した場合に、Bさんが300円を受け取ると言えば、Aさんは700円、Bさんは300円を受け取れます。
ただし、Bさんが300円は少ないと感じて受け取らないと言えば、Aさん、Bさんともにお金を受け取れない。
という、いたってシンプルな実験です。
ただこれだけのゲームなのですが、これも不思議な現象が起こります。
ここでは仮にAさん999円、Bさん1円を配分した時の利得表を作ってみましょう。
Bさん受け取る | Bさん受け取らない | |
Aさん提示 | (999円、1円) | (0円、0円) |
利得表を作るまでも無いですが、果たしてゲーム理論上どっちが最適解かと言うと、Bさんが受け取る方が得です。
なぜならBさんはお金を提示された段階で、0円以上であれば必ず得をするので受け取るはずです。
ただ、現実はどうでしょうか。
例えば、あなたがBさんの立場だったとして、お金を分けるときに1円を提示されて受け取るでしょうか?
恐らく多くの人が「不公平だ」と感じて1円を拒否するのでは無いでしょうか。
これが最後通牒ゲームの不思議なところで、これだけ有名になっている実験の根拠なのですが
「人は不平等に対して、自分が損をしてでも不公平を正す」というある種不思議で謎の行動に出ます。
これが、最後通牒ゲームの面白い所と言えます。
「最後通牒ゲームの謎」を読んだ感想
本書は、ゲーム理論の最後通牒ゲームに焦点を当てて、なぜこのような不思議な行動に出るのかを様々な実験を通して説明しています。
例えば、この実験を世界中ので実施してみると文化によって提示金額だったり受け取る金額が大きく異なることがわかります。
例えばインドネシアのラマレラ族だと平均して自分より相手に多くの金額(57%)を渡そうとしていました。
これはラマレラ族がクジラ漁で生計を立てている部族であり、クジラ漁自体が危険な狩りであるため皆が協力して漁をする必要があり、漁で得た食料は皆で公平に分配すると言う文化があるからではないかと言われています。
また逆にペルーのマチケンガ族は、平均して25%ほどの提案率で、ほとんどが15%ほどの提案金額だったそうです。
そして、その少額の提案金額ですが、拒否されたのはたった1件とこちらも非常に興味深い実験結果が出ています。
また実験の方法も少しづつ変えてみたりしています。
例えば、AさんとBさんを合わさずに実験してみるとどうなるのかだったり、また最後通牒ゲームはBさんに拒否権がありますが、Bさんに拒否権のない独裁者ゲームというやり方だと結果はどうなるかといった様々な実験をしています。
そこで様々な実験をした上での筆者なりの実験結果から導き出される考察が書かれており、単なるゲーム理論の説明ではなくて、そこから一歩踏み込んだ人間の心理や行動学といった観点からの考察を述べていてそこが非常に面白かったです。
ゲームはシンプルですが、そこから導き出される人間の心理は複雑でロジック通りには行かないと言う所にこのゲームの面白さがあるとこの本を読んで感じました。
またゲーム理論として最後通牒ゲームと言う言葉は知っていましたが、そのやり方やゲーム理論の重要性なども説明がありその辺りも楽しく読めて、知識としても習得できてよかったです。