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【2023年6月2日公開】ネタバレなしであらすじを解説!河林満「渇水」書評

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最近読んだ本で、面白かったものを紹介します。

渇水 / 河林満

こちら、1990年に出版されました、河林満 著「渇水」という小説です。

ちなみにこの本ですが、1999年文學界新人賞を受賞し、第103回芥川賞候補となりました。

この記事を読んで分かること
  • 2023年6月2日公開の映画「渇水」の概要
  • 「渇水」のあらすじ、本を読んだ感想
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2023年6月2日 公開!主演は生田斗真

こちらの本は1999年出版と23年前に発行された古い本なのですが、2023年6月2日に映画の公開が決定しています。

映画『渇水』公式サイト - KADOKAWA
映画『渇水』6/2(金)ロードショー。渇いた世界に、希望の雨は降るのか−。主演:生田斗真×企画プロデュース:白石和彌(『凶悪』『孤狼の血』『ひとよ』)×監督:髙橋正弥 普遍的な生の哀しみを描いた芥川候補作が、30年の時を経て待望の映画化
  • 主演:生田斗真
  • 企画プロデュース:白石和彌
  • 監督:高橋正弥
  • 脚本:及川章太郎

主演は「土竜の唄」「予告犯」「グラスホッパー」などで主演を務めた生田斗真です。

また「凶悪」「狐狼の血」などの映画監督、白石和彌が企画プロデュースしています。

また、既にツイッターの公式アカウントも公開されています。

秋に公開予定とのことで、小説を読んだあとに改めて映画を見るのも良いですね

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「渇水」のあらすじ

河林満「渇水」の表紙とパソコン

あんまり詳しく話すとネタバレになるから冒頭のみ概要レベルでざっくり書きます

主人公の岩切俊作は、S市の水道局に勤める公務員で、彼の仕事は水道料金の長期滞納者の住居を回って水道の水を止めることです。

そして、その日もある水道料金の滞納者の住宅に赴き、滞納料金の徴収と払えない場合は水道を停止する予定でした。

家には誰もいない、仕方なくその家の水道を停止しようとします。

するとそこに小学生くらいの姉妹がやってきて、話かけられます。

もう、お水が止まってしまうの?

子供達は、その滞納者の家に住む小学生の姉妹でした。
姉の名は恵子、妹の名は久美子

両親はいつも不在で、岩切は毎回滞納料金の徴収の時に会う子供達なので見覚えがありました。

この子達の両親は3年間、再三の支払い要請と未払いの場合は水道停止という予告にもかかわらず、一度も水道料金を払わない。

岩切は姉妹にこう尋ねます。

「お母さんは今日帰ってくるよね」

「はい、帰ってきます」

「お母さんには何回もお知らせしてるんだけど、どうしても今日お水を止めなくてはいけないの。なので今からあるだけのバケツとか洗面器とかボールとかに水をためて下さい。お水はそれから止めますから」

そして、バケツやらお風呂やら洗面器など、とにかく水が貯まるもの全てに水を入れていきます。

こうしているうちにも母親が戻ってこないかなという期待を持ちながら。

そして、家にある水を貯めるもの全てに水を入れ終え、水道の停止をした後に岩切は姉妹にこう告げます。

お母さんが帰ってきたら、すぐ連絡をくれるように言ってちょうだいね

「はい分かりました」

岩切には、この子たちと同じくらいの年齢の子供がいました。

こんな子供達を残して両親はどこに行ったのだろうか。

これから水もなしに過ごさなくてはいけない姉妹に心が痛みながら

それから、しばらく姉妹と共に母親が帰るのを待ちましたが、結局帰ってこない。

岩切達が去り際に姉妹にこう告げます。

「連絡をくれるように、かならずいうんだよ」

上の子は何も答えずに、ただ黙って笑って見せた顔が、岩切には泣き笑いに見えました。

そして、岩切はその姉妹の元を立ち去り、次の現場に向かいました。


この本の主人公の岩切は、仕事で水道料金滞納者の家に行き、断水を行います。

人間は水無しでは生きて行けない、人間にとって最後のライフラインを断つ仕事をしています。

それくらい人間にとって大切な水なのに、自分勝手な理由で水道料金を滞納する人たち。

そして断水をする岩切に罵声を浴びせる人たち。

岩切は、自分たちは一体何をしているのだろうかと考えます。

そしてふと頭をよぎります。

あの姉妹の両親は、水道料金を払ったんだろうか」と。

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「渇水」を読んだ感想

子供2人の画像

この本はすごく短い話で、恐らく30分もあれば全部読めます。

ですが、その中で水を止められる人たち、水を止める人たち、それぞれの苦しみや傲慢さ、身勝手さをうまく表現しており、非常に読み応えのある物語となっています。

また、作者の河林満の特徴かもしれませんが、あまり文章で説明せずに描写や雰囲気などで登場人物の心情などを書いており、そう言う意味でも芥川賞にノミネートされたというのは納得の本でした。

そして物語ですが、非常に悲しい結末を迎えます。

ただ、思うにこの結末は賛否両論あったんじゃないかなと思いますし、現にこれだけの内容の本にも関わらず芥川賞を取れなかったのは、恐らくですがこの結末だったからじゃないかなと想像します。

ですが、僕はこの本にはこの結末が必要だったんじゃないかなと思います。

どうしようもない大人に振り回されるなんの罪もない子供達、その理不尽さを作者は訴えたかったんじゃないかと思いました。

特に印象に残っているシーンは、冒頭で姉妹の家の水道を止める際に、姉の恵子が岩切を一度家にあげます。

そして恵子が「いくらたまってるんですか」と、古い計算機を持ってきて滞納金額を計算しようとします。

その計算機が下駄のようの大きくて、ひどく不恰好。

そして何度ボタンを打っても画面に数字が表示されない。

「恐らく電池がないんじゃないかな」と岩切が言うと、恵子は怒ったように下を向いてこう言います。

これは電池がいらないやつだって、お父さんが言ってました

大人は嘘ばっかり、そしてその親の嘘を怒りながらも懸命に信じようとする子供。

そんな不条理さが、この冒頭の計算機のエピソードを通じて物語の根底に流れているなと感じました。