今回は大好きな作家さんで、この冬に映画公開予定の原作本です
母性 / 湊かなえ
こちらの小説は、2012年に新潮社より出版されました、湊かなえ 著「母性」です。
作者の湊かなえですが、代表作として下記があります。
- 告白:第6回本屋大賞受賞
- 贖罪:第63回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補
- 望郷、海の星:第65回日本推理作家協会賞(短編部門)受賞
- 母性:第26回山本周五郎賞候補
- 望郷:第149回直木三十五賞候補
- 絶唱:第28回山本周五郎賞候補
- リバース:第37回吉川英治文学新人賞候補
- ユートピア:第29回山本周五郎賞受賞
- ポイズンドーター・ホーリーマザー:第155回直木三十五賞候補
- 贖罪:エドガー賞(最優秀ペーパーバック・オリジナル部門)候補
- 未来:第159回直木三十五賞候補
- ブロードキャスト:山田風太郎賞候補
「告白」は本屋大賞も受賞し、映画化もされました
湊かなえといえば「告白」というイメージがありますが、以降も作品を発表しており、たびたび直木賞にも候補として挙がっています
- 2022年11月23日公開予定の映画「母性」の概要
- 「母性」のあらすじ、本を読んだ感想
2022年11月23日 公開決定!主演は戸田恵梨香・永野芽郁
こちらの小説ですが今年の11月に映画として公開予定です。
- 出演:戸田恵梨香、永野芽郁、
- 監督:廣木隆一
- 原作:湊かなえ
- エグゼクティブディレクター:関口大輔
母親「ルミ子」役に戸田恵梨香、娘「清佳」役に永野芽郁とW主演となっています。
そして「ルミ子の夫」役に三浦誠己、「ルミ子の母親」役に大地真央、「夫の母親」役に高畑淳子が務めます。
それから映画「月の満ち欠け」に引き続き、廣木隆一が監督を担当しています。
またツイッターで映画「母性」の公式アカウントも公開されています。
湊かなえ原作の映画としては「告白」「北のカナリア達」「白ゆき姫殺人事件」「少女」「望郷」に続いて今回が6作目となります、映画も毎回面白いので今作も楽しみですね
「母性」のあらすじ
今回もネタバレにならないように、冒頭のあらすじのみ書きますね
「10月20日午前6時ごろ、Y県Y市**町の県営住宅の中庭で、市内の県立高校に通う女子生徒(17)が倒れているのを、母親が見つけ警察に通報した。**署は女子生徒が4階にある自宅から転落したとして、事故と自殺の両方で原因を詳しく調べている。」
物語は、ある母親の手記から始まります。
この女性は結婚前に母親と2人で暮らしており、父親は既に病気で他界していました。
そしてこの女性は母親を大切にしており、母親も娘に対して深い愛情を注いでいました。
そしてこの女性は絵画教室に通っており、そこで田所哲史という男性と知り合います。
2人が出会ったのは、市民文化センターの絵画教室。
田所の描く絵は、どこか悲しいけれど、心に深く染み込んでくるような情緒に溢れていると皆から言われていました。
一方この女性の描く絵は愛情に包まれた明るい絵でした。
当初この女性は、田所の絵をあまり気に入っていなかったのですが、彼女の母親と絵の展示会にいった際に母親が田所の絵を絶賛します。
「この絵を描いた人はどんな人なのかしら」
そして、この女性は母親のために田所に絵を描いてもらうようにお願いします。
そしてそれがきっかけで2人は付き合うようになります。
ただ女性は田所と一緒にいても特別楽しいことはないし、田所のことを本当に好きかわからない。
ただ、結婚まで決意したのは、母親の後押しがあったからです。
「彼は湖のような人、たぎる情熱や一番大切な感情を、深いそこに沈めているんじゃないかしら。
あなたと結婚したいということは、湖のそこに沈めたものをものを日のあたるところまで引き上げて、輝かせて欲しいと願っているのかもしれないわ」
その言葉を受けて結婚を決意するのですが、その際に田所を古くから知っている友人の佐々木仁美からある忠告を受けます。
「哲史と結婚するのは絶対に苦労するからやめておいた方がいいわ」
というのも、彼の家は地主でしたが、偏屈なお父さんと口うるさいお母さんがいて、とにかく厳しくて他人に言いがかりをつけるそうです。
なので、あなたが嫁いだら年がら年中文句をいわれて気がおかしくなると。
ですが、彼女はその忠告を親身に受け取りませんでした。
自分は他人が何を求めているかを察して実行できる人間だから、他人から文句を言われることはないと。
実際に、彼女が田所の親に挨拶に行った際も、特に注意をされることはありませんでした。
ただ、田所の母親が彼女を一度も誉めなかったことにその時は気づけませんでした。
そして、女性は田所哲史と結婚します。
それから2年後に娘が産まれます。
田所とこの女性、そしてその娘の3人で高台にある街を見渡せる「美しい家」で暮らし始めます。
この時が家族にとって至福の時期でした。
ですが、ある日突然この家である不幸な事故が起こります。
そしてその事故で、彼女の唯一の理解者である母親が事故で亡くなります。
それから、この家族は田所の実家で住むことになります。
そこから、この家族の歯車がゆっくりと狂い始めます。
「母性」を読んだ感想
この本のタイトルである「母性」とはなんでしょうか。
ぼ‐せい【母性】
出典 精選版 日本国語大辞典精選版
〘名〙 女性が、子どもを守り育てようとする母親として持つ本能的な性質や機能。
この物語は、母と娘を中心に描かれています。
母は自分の母親から無償の愛を受けて育ちます、そしてその愛情をなんとか自分の娘にも与えたいと考えています。
ですが、いつまでも母親から愛情を受けたいと、いつまでも母親の娘でいたいと望んでいる母親で、うまく娘に愛情を与えることが出来ません。
娘も母親から無償の愛を受けたいと、母親の味方でいようと思うのですが、うまく母親の愛情を受け取れません。
作中ではその母と娘の愛情のすれ違いがそれぞれの視点で描かれていて、非常にもどかしい気持ちになりました。
「愛能う限り(あいあたうかぎり)」
作中ではよくこの言葉が母親のセリフとして出てきます。
「私は、愛能う限り娘を育ててきました」
ですが、本当に娘を愛している母親が「愛能う限り」なんて言葉を使うでしょうか。
この母親のぎこちない母性がこの言葉に象徴されているように感じました。
そしてこの本の面白さがもう一つあって、それは小説の構成です。
この小説は、最初に女子高生の転落事故を報じる新聞記事から始まります。
それから、各章ごとに以下の3つの話が、別々の時系列で続いていきます。
- 母性について(国語教師とその後輩教師が転落事故について話す回想)
- 母親の手記(神父さんに懺悔しているもの)
- 娘の回想(高校生の娘の回想録)
読んでいて「娘の回想」はある女子高生の回想で、「母親の手記」はその女子高生の母親の手記と想像して読むことができます。
ですが「母性について」が、この2つの話と全然繋がらないのです。
この話は、ある教師が新聞記事で女子高生の転落事故を読んで興味を持ち、それから先輩の国語教師が以前この転落した女子高生の高校に赴任していたことを後輩教師が聞き、詳しく聞きたいとそのまま2人で話をするというものです。
ですが、この話が最後に驚くような形で2つの話とつながります。
ヒントは、飲みにいった場所が「たこ焼き屋」、そしてその店主が「りっちゃん」でバイトが「ヒデ」というところでしょうか。
恐らくですが、ここの描写は映画では再現不可能だと思います。
ですので、この辺りの構成を映画でどう表現されているかも映画の見どころだと思います。
そして、こういう物語の構成の面白さは小説ならではだと思うので、ここだけでも小説を読む価値があると思いますし、同時に湊かなえという作家の天才ぶりに感動すら覚えます。
なので、映画を見るのとは別に小説を読むのも、この物語が別の形で面白さが伝わってくるのでおすすめです