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【第69回 高等学校 課題図書】安壇美緒「ラブカは静かに弓を持つ」書評

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今回は読書感想文全国コンクールの課題図書(高等学校の部)を紹介したいと思います

ラブカは静かに弓を持つ / 安壇美緒 著

こちらの本は、2022年に集英社より出版されました、安壇美緒 著ラブカは静かに弓を持つです。

この記事を読んで分かること
  • 青少年読書感想文全国コンクールの課題図書の概要
  • 「ラブカは静かに弓を持つ」のあらすじ、本を読んだ感想
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青少年読書感想文全国コンクールの課題図書

こちらの本ですが、第69回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書となっています。

課題図書は「小学校低学年」「小学校中学年」「小学校高学年」「中学校」「高等学校」に分かれていまして、今回の「ラブカは静かに弓を持つ」は「高等学校」の課題図書になっています。

■小学校低学年の部

題名著者出版社
それで、いい!礒みゆき 作
はたこうしろう 絵
ポプラ社
よるのあいだに…:みんなをささえる はたらく人たちポリー・フェイバー 文
ハリエット・ホブデイ 絵
中井はるの 訳
BL出版
けんかのたねラッセル・ホーバン 作
小宮由 訳
大野八生 絵
岩波書店
うまれてくるよ海のなか高久至 しゃしん
かんちくたかこ ぶん
アリス館

■小学校中学年の部

題名著者出版社
ライスボールとみそ蔵と横田明子 作
塚越文雄 絵
絵本塾出版
秘密の大作戦!フードバンクどろぼうをつかまえろ!パオンジャリQ・ラウフ 著
千葉茂樹 訳
スギヤマカナヨ 絵
あすなろ書房
化石のよぶ声がきこえる:天才恐竜ハンターウェンディ・スロボーダヘレイン・ベッカー 作
サンドラ・デュメイ 絵
木村由莉 訳・監修
くもん出版
給食室のいちにち大塚菜生 文
イシヤマアズサ 絵
少年写真新聞社

■小学校高学年の部

題名著者出版社
ふたりのえびす髙森美由紀 作フレーベル館
5番レーンウン・ソホル 作
ノ・インギョン 絵
すんみ 訳
鈴木出版
魔女だったかもしれないわたしエル・マクニコル 著
櫛田理絵 訳
PHP研究所
中村哲物語:大地をうるおし平和につくした医師松島恵利子 著汐文社

■中学校の部

題名著者出版社
スクラッチ歌代朔 作あかね書房
アップステージ:シャイなわたしが舞台に立つまでダイアナ・ハーモン・アシャー 作
武富博子 訳
評論社
人がつくった川・荒川:水害からいのちを守り、暮らしを豊かにする長谷川敦 著旬報社

■高等学校の部

題名著者出版社
ラブカは静かに弓を持つ安壇美緒 著集英社
タガヤセ!日本 :「農水省の白石さん」が農業の魅力教えます白石優生 著河出書房新社
昆虫の惑星:虫たちは今日も地球を回すアンヌ・スヴェルトルップ=ティーゲソン 著
小林玲子 訳
辰巳出版
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「ラブカは静かに弓を持つ」のあらすじ

音楽著作権の管理団体である全日本音楽著作権連盟に勤める「橘樹」は、ある日上司の塩坪から会社の地下にある資料室に呼び出されます。

そこで塩坪から「ミカサ音楽教室」に生徒として2年間チェロ教室に通うという業務命令を受けます。

というのも、ミカサ音楽教室では生徒に楽器を教える際に、全日本音楽著作権連盟で管理している曲を使っているという噂があり、事実確認と著作権使用料を徴収するための情報を集めて欲しいとのこと。

つまり、2年間ミカサ音楽教室に通い、著作権侵害の証拠を集めること、そして裁判の際には橘に証言をして欲しいということでした。

また、橘自身も幼少期に8年間チェロを習っていたため、潜入捜査にはぴったりの人材でした。

ですが、橘は幼少期チェロ教室の帰りに誘拐事件に巻き込まれ、それ以来チェロに対して恐怖心を抱いていました。

なので橘は不安もありましたが、仕事のため仕方なくその潜入捜査を引き受けます。

そして橘はミカサ音楽教室二子玉川店で、チェロ講師の「浅葉桜太郎」からレッスンを受けます。

橘とあまり年の変わらない浅葉から、どういった曲を弾きたいのか聞かれると、橘はポップスが弾いてみたいと答えます。

それ以来、毎週浅葉の指導のもとひそかに録音機を回し証拠集めをしながら、チェロでポップスを弾くことになります。

ですが、潜入捜査をしながらチェロを習うのは精神的に辛く、次第に就寝時に悪夢を見るようになり、以前から続いていた不眠も悪化し、橘は音楽教室の授業中に倒れてしまいます。

椅子に座って休んでいる橘のために、浅葉はチェロで有名作曲家である「小野瀬晃」の曲を演奏します。

浅葉の演奏する清らかな音色が橘の心を癒し、その日は不眠もなくぐっすり眠れます。

橘は「浅葉のようにチェロを弾ければ悪夢から逃れられるかもしれない」と思うようになり、それ以降チェロの演奏にのめりこむようになります。

同時に、同じチェロのコースに通う、レストラン経営者の「花岡」、大学生の「かすみ」、年配男性の「蒲生」、会社員の「梶山」、大学院生の「琢朗」たちとも親交を深めていきます。

そして、ミカサ音楽教室主催のクリスマス発表会で、演奏を発表することになった橘は、小野瀬作曲の「戦慄きのラブカ」を演奏します。

橘は浅葉の指導や仲間たちとともにますますチェロに熱中し、次第に演奏の楽しさや仲間と過ごす時間の楽しさを感じるようになります。

ですが潜入捜査から2年たったある日、上司の塩坪から呼び出されます。

「証人尋問の日程だけどね、7月の頭で決まりそうなんだ。なので当初の予定通り、6月にはミカサを退会するように」

7月にミカサ音楽教室を著作権侵害で訴える裁判を起こすということでした。

こうなることは橘も最初から分かっていましたが、どうにかなるかもと都合のいい夢をみていた自分に気づきます。

そしてチェロに向き合ってきたこれまでの2年間が、途端に後ろ暗いものに感じられました。

その後、浅葉にチェロ教室の退会を伝えなければと考えていたころ、浅葉からある話を聞きます。

「夏の全日本音楽コンクールに出ようかと思ってる、年齢的にも今年が最後のチャンスらしいからさ」

その時、橘にはある焦燥が燻るように燃えていました。

もし、裁判が行われて浅葉が証人として呼ばれたら、浅葉の全日本音楽コンクール出場はどうなるのだろうか。

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「ラブカは静かに弓を持つ」を読んだ感想

「人生において大切なものは何か?」

それがこの本のテーマだったように感じました。

この本の主人公「橘」は、幼少期にチェロ教室の帰りに誘拐事件に巻き込まれて以来、チェロに対して恐怖心を抱いていました。

ですがチェロ教室に通い、浅葉の指導を受けるにつれて次第にチェロの楽しさを知ります。

辛いこと続きだった橘の人生に、音楽という楽しみが生まれます。

一方で橘は、著作権を守るという仕事のために、ミカサ音楽教室に潜入捜査をしていました。

仕事としての音楽と生きがいとしての音楽との狭間で、橘は苦悩します。

人生にとって何に重きを置くのかを決められずに苦悩する橘の姿を見て、心が苦しくなりました。

ですが橘は、浅葉が全日本コンクールを受けると聞いたとき、そして同時期に裁判が行われるのを知ったときに、自分がいままで2年間集めてきた証拠を全て破棄します。

その時に橘は思ったんじゃないでしょうか。

潜入捜査は音楽家を守るために、会社のためにやったことであり、自分は決して間違ったことはしていない。

だけど自分の行動によって、浅葉の大切な音楽を、そして浅葉自身の人生を壊してしまう。

それは絶対にあってはならないし、そんなことをする権利は自分にはないと。

会社の命令に背くのは大変なことだと思いますが、それでも浅葉のコンクール出場のために、証拠の破棄を躊躇なく実行した橘の決断はすごいなと感じました。

そしてその後会社を辞め、再び浅葉のもとを訪れてチェロを教えて欲しいと伝えます。

それは、自分にとって音楽は著作権を守る仕事ではなく、チェロを弾く楽しさだと再認識し、彼自身の人生にとって本当に大切なものを見つけた瞬間だったと思います。

音楽とは心を癒すものであり、人生に喜びを与えるものです。

一方で、人に良い音楽を提供しようと、音楽を職業にして日々音楽制作を頑張っている人もいます。

著作権を守るために、それこそ音楽教室からもお金を取るというのは確かにやりすぎかもしれません。

ですが、音楽を人生に喜びを与えるものであれば、その音楽を保護することも必要じゃないかと思います。

この辺りも何が正解なのか、結論は出ないと思います。

ですが、音楽に何を求めているのか、人生にとって音楽の価値は何なのかというのを、この本を通じてすごく考えさせられました。