今回は読書感想文全国コンクールの課題図書(高等学校の部)を紹介したいと思います
宙わたる教室 / 伊与原 新 著
こちらの本は、2023年に文藝春秋より出版されました、伊与原 新 著「宙わたる教室」です。
- 青少年読書感想文全国コンクールの課題図書の概要
- 「宙わたる教室」のあらすじ、本を読んだ感想
青少年読書感想文全国コンクールの課題図書
こちらの本ですが、第70回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書となっています。
課題図書は「小学校低学年」「小学校中学年」「小学校高学年」「中学校」「高等学校」に分かれていまして、今回の「宙わたる教室」は「高等学校」の課題図書になっています。
■小学校低学年の部
題名 | 著者 | 出版社 |
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アザラシのアニュー | あずみ虫 作 | 童心社 |
ごめんねでてこい | ささきみお 作・絵 | 文研出版 |
おちびさんじゃないよ | マヤ・マイヤーズ ぶん ヘウォン・ユン え まえざわあきえ やく | イマジネイション・プラス |
どうやってできるの? チョコレート | 田村孝介、立脇卓 写真 | ひさかたチャイルド |
■小学校中学年の部
題名 | 著者 | 出版社 |
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いつかの約束1945 | 山本悦子 作 平澤朋子 絵 | 岩崎書店 |
じゅげむの夏 | 最上一平 作 マメイケダ 絵 | 佼成出版社 |
さようなら プラスチック・ストロー | ディー・ロミート 文 ズユェ・チェン 絵 千葉茂樹 訳 | 光村教育図書 |
聞いて 聞いて!:音と耳のはなし | 髙津修、遠藤義人 文 長崎訓子 絵 | 福音館書店 |
■小学校高学年の部
題名 | 著者 | 出版社 |
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ぼくはうそをついた | 西村すぐり 作 中島花野 絵 | ポプラ社 |
ドアのむこうの国へのパスポート | トンケ・ドラフト 作 リンデルト・クロムハウト 作 リンデ・ファース 絵 西村由美 訳 | 岩波書店 |
図書館がくれた宝物 | ケイト・アルバス 作 櫛田理絵 訳 | 徳間書店 |
海よ光れ!:3・11被災者を励ました学校新聞 | 田沢五月 作 | 国土社 |
■中学校の部
題名 | 著者 | 出版社 |
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ノクツドウライオウ:靴ノ往来堂 | 佐藤まどか 著 | あすなろ書房 |
希望のひとしずく | キース・カラブレーゼ 著 代田亜香子 訳 | 理論社 |
アフリカで、バッグの会社はじめました:寄り道多め仲本千津の進んできた道 | 江口絵理 著 | さ・え・ら書房 |
■高等学校の部
題名 | 著者 | 出版社 |
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宙わたる教室 | 伊与原 新 著 | 文藝春秋 |
優等生サバイバル:青春を生き抜く13の法則 | ファン・ヨンミ 作 キム・イネ 訳 | 評論社 |
私の職場はサバンナです! | 太田ゆか 著 | 河出書房新社 |
「宙わたる教室」のあらすじ
地下鉄東新宿駅の交差点を超えた先の、ゆるやかな坂道を上る途中に学校があります。
ここは都立東新宿高校で、全日制とは別に夜間から通う定時制があります。
東新宿高校の定時制は1学年1クラスで定員は30人、そして卒業までに4年間かかります。
ですが毎年定員割れで、せっかく入学してきた1年生も2年生になるまでに6、7割となり、ひどい年には半分以下に生徒が減ります。
彼らは進級できないのではなく、学校になじめなかったり、嫌気がさしたりして自ら退学していくのです。
そして東新宿高校の定時制には、様々な事情を抱えた生徒たちが通っていました。
廃品回収業者に努める21歳の柳田岳人は、金髪で耳にたくさんのピアスという風貌で、いつも不良仲間とつるんでいました。
ただ高卒という肩書が欲しいという理由で高校に通っていたため、高校で勉強することに意味を見出せずにいました。
夫と2人でフィリピン料理店を営んでいる越川アンジェラは、在日のフィリピン人です。
彼女は小さい頃、仕事をする母親の代わりに、小さな兄弟の世話や家の手伝いなどをしなければならなかったため、ほとんど学校に行けませんでした。
そして大人になり結婚して子供も大きくなったので、ずっと学校に通って勉強したかったという思いからこの定時制高校に通っていました。
中学の時に起立性調節障害という病気にかかり不登校になった名取佳純は、東新宿高校の定時制に進学しました。
ですが教室では体調が優れないため、授業の間はいつも保健室に行ってベッドで寝て過ごしていました。
東新宿高校で最年長である70代の長峰省造は、中学を卒業後に集団就職で東京に出てきたのち、小さな町工場を経営していました。
その後自分の会社をたたんだのち、高校で勉強したいという思いから、東新宿高校の定時制に通っていました。
そして、この定時制の2年生のクラス担任が藤竹という理科の先生です。
彼は、昼は大学院の理学研究所の研究員として働いており、夜は東新宿高校で数学と理科を教えるという二足のわらじを履いていました。
そして藤竹は、この東新宿高校の定時制に「科学部」という部活動を立ち上げます。
科学部の研究テーマは「火星のクレーター」を再現する実験を行うこと。
ただし、実験に使う装置や環境は全て生徒たちによる手作りです。
そして藤竹は、柳田やアンジェラ、佳純や長峰など定時制の生徒を科学部に誘います。
生徒たちも最初は戸惑いますが、実験の内容に触れ次第に科学部の活動に興味を持ち始めます。
今までは定時制の学校に通うことに意味を見出せなかった柳田や佳純なども、実験をするために積極的に定時制の学校に通うようになります。
彼ら科学部には、大きな目標がありました。
それは、幕張メッセで行われる日本地球惑星科学連合大会、その学会で科学部の研究成果を発表することです。
「宙わたる教室」を読んだ感想
この本ですが、実話を元に作られたとのことで、まずその点に驚きました。
本作の登場人物たちは、みな心に傷を負っていたり不遇な人生を送りながら、様々な思いを持って定時制の高校で勉強していました。
ある人は中学を卒業してすぐに働き出したため、人生の最後にもう一度勉強したいという気持ちで学校に通います。
またある人は、小さいころに家庭の事情で学校に行けずにそのまま大人になり、もう一度勉強をしたいという理由から学校に通っています。
また、元々数学が得意だったものの文字の読み書きが出来ずに、そのまま学校を中退してしまった人や、学校で集団生活に適さずに不登校になった人もいます。
そんな彼らが、部活動で火星クレーターを作るという実験を通じ、仲間と協力して活動する楽しさや実験に対する新しいアイディアや工夫を行うことを通じて、改めて学ぶことの楽しさを知ったこと。
そして学校に通うことに意味を見出せなかった人たちが、科学部の活動を通じて学校に来ることの楽しさが分かるようになったのは良かったと思いました。
そして部活の実験では、実験装置や環境を含めて全て自分たち手作業で行います。
科学に対する専門知識のない人たちによる先入観のない自由な発想が、面白い実験結果を生み、ついには学会の発表まで行ったというストーリーは読んでいて痛快でもありました。
そして感じたのは、新しいことを学ぶことに年齢も環境も関係ないということ。
ただ学ぶことに対する情熱と諦めない努力があれば、どんな環境でもいくら年をとっていても、ましてや知識が無くても大成することは可能なんだということに僕自身ちょっとだけ勇気をもらいました。
そして本書では、登場人物それぞれに辛い過去があり、その背景やストーリーを丁寧に描写していたので、読んでいて各キャラクターに感情移入してしまいました。
物語の序盤でも、最初はお互い知らないもの同士なので、お互いに反発しあうという場面が多くありました。
ただお互いを知らなければ、単なるヤンキーやジェネレーションギャップ爺さんなんですけど、物語が進むに連れて、お互いを知り、彼らのストーリーやその背景をお互いそれぞれが認め合い、ひとつ目標に向かって協力するというストーリーも読みごたえがありました。
人にはそれぞれ歩んできた歴史があり、その歩んだ歴史をお互いが少しづつ知れたこと、そして人を理解して、人を認めて、人をリスペクトして、人と協力したその結果大きな賞を受賞出来たことは素晴らしかったなと感じました。